もっとたくさんの人に観て欲しい『将軍の娘 エリザベス・キャンベル』 [映画]

     
『将軍の娘 エリザベス・キャンベル』
1999年アメリカ公開作品。
原作未読。
四回目くらいの視聴です。

このタイトルを見るたび、
昔コサキン(TBSラジオ)で関根さん(ラビィこと関根勤さん)が言っていた、
「コレ、タイトルが違ったらもっとヒットしたよね」
という言葉を思い出します。

〝将軍の娘〟というのは元々のタイトルでもあるし、
変更のしようもなく、確かに内容にもマッチしているんですけど、
たとえば同年代の『羊たちの沈黙』とかと比べると、
インパクトがないのが寂しいですね(-_-;)
……同系統でいうと、
わたしの好きな『閉ざされた森』も、タイトルが違ってたら当たってたかもな~

以前に感想を書いた『告発の行方』→わたしの感想
と同じく、男性にも女性にも性差を考える上で観て欲しい良作です。

以下、ネタバレありの感想が続きますが、
今からでも観ようと思っている方は、ぜひネタバレなしでの視聴をオススメします。
誰が犯人なのか、どういう動機だったのか、
非常にミステリー要素の強い作品です。



主人公はブレナー(ジョン・トラボルタ)という潜入捜査官です。
彼は素性を偽って兵器横流しの捜査をしていましたが、
その最中、たまたま基地で強姦(?)殺人事件が起こります。
全裸で四肢を杭で固定され、両手両足を拡げた屈辱的な格好のまま、
首にはパンティと紐が巻かれていました。
絞殺でありながら、首には紐で締めた痕跡はナシ。
被害者の女性は、ブレナーが先日顔見知りになった
心理作戦部の教官、エリザベス・キャンベル大尉でした。
エリザベス曰く、
「人の脳を掻き回す」部署です。

ここで強姦カッコハテナ、なのは、 この時点では強姦の痕跡が不明瞭だからです。

元カノの捜査官サラと共に事件の解決を任されるブレナーは、
彼女が自分の憧れていた次期副大統領候補のキャンベル将軍の娘だと知ります。
将軍のためにも、また、強く惹かれていたエリザベスのためにも、
ブレナーはなんとしても解決しようと決意します。

わたしは原作未読なので、 あくまで映画に即したカタチで印象を連ねますね。 ブレナー=トラボルタは、原作通りではないのかもしれませんが、 『閉ざされた森』のキャラ同様、 いわゆる、国を愛し守る典型的な清いアメリカ軍人タイプで、 いささか単純な人格ではありながらも、 充分に安心できる主人公として描かれています。 そういう男性なので、キャンベル将軍の演説にもグッと感動するシーンがあったり、 自分にとってキャンベル将軍は初任務で声をかけてくれた英雄的な上司でもあると、 少年のように告白したりと、 ここらでは純粋に犯人許すまじ、という理念で動いています。

エリザベスの私生活を洗うと、
彼女が見た目や素性通りの清廉潔白な人物でなかったことが判ってきます。
自宅の地下に秘密のSM部屋があり、
行為を収めたビデオも出てきます。
エリザベスの人となりの証言を集めるにつれ、
女性兵士たちにとっての憧れの英雄である反面、
実は基地の男性の大半と性的関係を結んでいたことも発覚します。
彼女の死に方は、彼女自身の生き方のせいだった、
と、ブレナーは愕然とします。

犯される女は犯されるだけの理由がある、 というのは、女性としては憮然となる理屈ですね。 でもこの物語では、フローチャートの結末からのぼっていくように、 すべての事象が一つの陰惨な発端に向かっていくのです。

ブレナーはエリザベスの上司、ムーアを疑い、
事実 彼は秘密の一端を知ってはいましたが、
彼はゲイで、エリザベスとは親しい友人の域を出ていませんでした。

ムーアは非常に複雑な役回りをして、推理を混乱させますが、 事実を知った後だと、エリザベスの本当の意味での理解者だったんだろうな、 と想像させます。 ゲイである彼もまた、沈黙を余儀なくされる立場にあり、 エリザベスの苦渋が理解できたのでしょう。

ムーアが自殺に見せかけ犯人として〝処理〟されると、
怒った彼の恋人がエリザベスの秘密の一端であるカルテをブレナーに渡します。
それはエリザベスの士官学校時代のカウンセリングカルテでした。

ここからいよいよ、〝あんな格好〟をしていた〝理由〟があらわになっていきます。

エリザベスは優秀な士官候補生でした。
将軍の娘で、しかも優等生、〝男性よりも〟。
彼女は男子生徒の憎悪を買い、演習中に輪姦されていました。
杭で裸の四肢を拘束され、一晩中、仮死状態になるまで犯され、
告発したら殺すと脅され、性病をうつされ、堕胎を余儀なくされました。
彼女を犯した生徒たちは告発されませんでした。

なぜなのか?

エリザベスは〝過去に〟輪姦され、
肉体を壊されてしまいました。
けれど強靱な彼女は魂まで壊されることは無かった。
彼女の魂を打ち砕いたのは、
保身のために彼女の勇気ある告発を許さなかった父、キャンベル将軍でした。

ここね…悲しいけど素晴らしいシーンでしたね。 ボロボロにされたエリザベスだけど、 目は死んでいないんですよ、血まみれで、言葉もろくに出せない、 でも犯人を見たし、糾弾する気持ちでいっぱいなんです。 なのにね、将軍は男女共学を旨とした士官学校の将来のため、 と説得されて、娘がこうむった極悪犯罪をもみ消してしまうんです。

最初は彼女が輪姦によって壊されたと思うんですが、 実際に壊したのは英雄視していた父親だった、という。 実に虚しく皮肉な結論…。 エリザベスは事件を再現して父親に見せつけることで、 彼の脳を掻き回したかったんですね。 だけど将軍はやっぱり過去と同様、 娘の現実から目をそらしてしまう。 それが更なる悲劇を招き、エリザベスは真犯人によって殺害されてしまったわけです。 さて、真犯人については、ここではネタバレしないことにします。 正直、ここまでの事象で、映画としてはもうお腹いっぱい感がありました(^_^;) 真犯人が誰だろうと、エリザベスの苦悩は解決できないし、 理解も同情もしようとしない将軍の冷血ぶりは、 ほとんど唾棄に値するクズっぷりでした。

ラストはエリザベス事件の関係者が断罪されることで
なんとか溜飲が下がります。
良き父としての誇りを捨てく、立身出世を選択した将軍らしい末路です。
……途中で将軍の若い頃の写真が出て、
その時に幼いエリザベスを抱いている様子について、
サラが、「彼女はおびえている」って言うんですよ。
詳しい説明はありませんでしたが、
おそらくこの男が元々尊敬に値しないタイプの人物だという
一つのシークエンスだったんじゃないかと思います。
つまり、プロパガンダに自分の娘を利用して、
自身を英雄に仕立てる利己主義なところが昔からあった、という…。

男性社会における女性の社会進出は、 この時点より改善されているんですかね…。 エリザベスが輪姦されるシーンなど、 ムカついて涙が出るような箇所もたくさんある映画ですが、 ブレナーが最初に感じたエリザベスへの好感がラストまで損なわれず、 そういう意味では安心して観ることができます。 古い作品ですし、大風呂敷を広げて大々的に喧伝する映画ではありませんが、 一度は観て損のない良作です。 わたしのネタバレを読んだ後でも面白いと思いますので、 興味のある方はぜひ。


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