復讐×ゾンビ 「サベージ・キラー」を観た [映画]


     
「サベージ・キラー」
WOWOWオンデマンドにて視聴。

あらかじめご注意しておきますが、
この作品は「発情アニマル」や「アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ」などの
リベンジ・バイオレンス系列として、
陵辱された女性の復讐ものとして広告されていますが、
そういう、現実的な恐怖や警告を描いたジャンルものではありません。
ハイパー・ゾンビ・エンジェル・リベンジ作品です。
タランティーノの「フロム・ダスク・ティル・ドーン」とか、
「ショーン・オブ・ザ・デッド」とかの方が近いですよ。
評価は高いか低いの二極化されており、
わたしは〝高い〟方に加わります。
事前にトンデモ作品であることを念頭において視聴すべきです。

さて、2013年にアメリカで公開されたそうですが、
制作費の捻出に苦労して完成まで六年かかったそうです。
わたしが勝手に嫌いなK谷K明氏に聞かせてやりたい逸話ですな。

あらすじを単純に説明すると……
・聾唖の美女、ゾーイは、黒人青年デインとの結婚を決め、 心配する母をなだめ、父の形見の車でニューメキシコに出発する。 ・途中、インディアンの青年らが暴漢に殺されるのを阻もうとする優しいゾーイ。 ・しかし耳が聞こえず、言葉も満足に口にできない可弱いゾーイ。 ・インディアンは殺され、ゾーイは拉致され輪姦されてしまう。 ・暴漢たちは兄弟で、 彼らのご先祖はインディアンの大酋長を騙して殺した将軍だった。 ・暴漢らのリーダーに自慢話のついでに 殺されたインディアンたちの髑髏を見せつけられ、辟易するゾーイ。

……この髑髏群がラストへの布石になっています。

・リーダー格はゾーイをこのまま〝飼って〟いたがるが、 多少知恵の働く年長暴漢は生かしたままでは危ないと警告する。 ・有刺鉄線で肘までグルグル巻きに縛られている可哀想なゾーイ。 ・精神力で痛みを克服し(わたしの想像)、 有刺鉄線に肉をこそぎ取られながらも脱出を試みる果敢なゾーイ。 ・しかし年長暴漢に見つかり、あっけなくナイフで刺殺され、 死んだと思われて埋められるゾーイ。

……ここまでは、いわゆる「ヤられたらヤリ返せ」系の定番ですが、
ここからかなり方向が変わっていきます。

以下ネタバレ有りのあらすじと感想が続きます。




・インディアンの聖地に住む呪医の老人が、 半死人状態のゾーイを発見する。 ・呪医はゾーイの肉体に魂を呼び戻そうとするが、 その際、だまし討ちされた大酋長、〝赤袖〟の魂も降臨してしまう。 ・復讐に燃える赤袖の復活を阻止した呪医だが、 それは同時にゾーイの死も意味していた。 ・一夜が明け、目を覚ましたゾーイは何が起こったのかわからず歩き出す。

……ここらへんの描写は非常にチープですが、
低予算、という縛りを考えると、いまどきのバリバリCGが使えなくたって、
そんなもの、なんぼのもんじゃい、という気概を感じる演出ではあります。

・その頃、ゾーイの婚約者デインは到着しないゾーイを心配し、 行方不明者として警察にも捜索を依頼していた。 ・夜になって町まで辿り着いたゾーイは、 公衆電話を見つけてデインと連絡を取る。 ・デインは公衆電話の場所を調べてゾーイを迎えに行く。

……正直、デインってのはこのへんまで、
「別にいらねんじゃね?」
って思っていたキャラだったんです、わたし。
リベンジ・バイオレンスって、男性に復讐するという名目のためか、
男性の助っ人とか、男性目線の味方ってあんまり登場しないんですよ。
家族ものの復讐劇、っていうなら、
「ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト」がありますけど。
あんまりゴチャッとキャラを出すと、趣旨がズレんじゃね?
なんて、いま思えばわたしは傲慢でした _/>O

・パトカーを見つけて助けを求めようとするゾーイ。 しかしバーに入っていく警官は、自分を輪姦した暴漢の一員だった。 ・警官はバーテンに、今探されているオンナを犯して殺したと暗に自慢。 後ろでビリヤードをしている男も、自慢話をニヤついて聞いている。 店内には三人しかいない。 ・そのときズタボロ姿のゾーイが入店し、店内の雰囲気は一変。 ・モツ綱引きで華麗に勝利するゾーイ。 ・バーテンもビリヤード男も敵意有りと判断してぬっ殺す。

……ここまででも充分グロ描写はありますし、
というか、腹をナイフで何度も刺す音とか、
すごく痛そうでツライんです…が、
とうとうモツを引っ張りあう描写が登場し、
(警官がモツを取り出され、俺のモツを返せ側)
ゴアゴアな展開によってカタルシスも高まります。
安心してください、ひどい描写ではありますけど、
〝それほどは〟ひどくありません。
なにほど、と言うのは難しいんですけど…、
「ホステル」ほどはひどくないよ、って感じかしら(・ω・)
「ホステル」も、想像で恐怖が増殖するタイプの作品でしたが、
そういう意味ではこっちは切断・腐敗描写がリアルかも。
わたしは「ホステル」の方が描写的にえげつない、と思います。

・町に到着したデインは、 バーを取り巻いているパトカーや警官たちを見て、 ゾーイの身に危機が! と、駆け寄る。 ・しかしゾーイの姿はなく、 仲間が殺されたと知った暴漢たちが、興奮して集まっていた。 ・ふとっちょ警官に相談していたデインは、 彼らの粗暴な態度にピンときて、ゾーイの行方を尋ねるが、 「知らない」とつっぱねられる。

……ここで更に登場するふとっちょ警官も、
「えっ、まだキャラ増やすの?」
と、警戒したわたしですが、
ここでのデインとふとっちょ警官のささやかな会話は、
ものすごく立派な伏線となって後に繋がっていきます。
また、デインがなにげに流し観ているホラーでは、
エンディングの悲劇を連想させるフラグが立っています。

・朝になり知らない納屋で目覚めたゾーイは、 耳が聞こえるようになったことを素直に喜ぶが、 狩りの道具を目にした彼女は、また何者かになってしまう。 ・ゾーイの死体がなくなっていることを確認した暴漢たちは、 ゾーイ復讐説、インディアン復讐説、いろいろ恨まれてるから説、 と、確信を得られぬまま対応におわれる。 ・ここであんまり強くない弱暴漢は単身身を隠すことにして単独行動を取る。 ・もちろん弓矢を手に登場するゾーイ。

……実はここ、弱暴漢の恐怖顔から入って、
タイヤに打ち込まれている禍々しい矢を映す、という演出で、
いわゆる「必殺」ものの、
♪チャララーン、チャチャチャ、チャララーン♪
のタイミングでハイパー・ゾンビ・エンジェル、ゾーイ登場、なわけです(*´ -`)
もうここまでくると、ゾーイ無敵、ゾーイ最凶、いてまえゾーイ、なんです。
ヒロインのアマンダ・エイドリアンさんは、
聾唖の役なのでセリフはないんですが、
それだけに感情表現が豊かで、しかも悲しくなるほど美しい。
この、一見か弱げな美女が、酋長赤袖に憑依されている時は、
俊敏で野性味溢れるスポーティなハイパービューティーになるのがたまりません。
演出の都合上、復讐期から唐突な無双強化されていた
「アイ・スピッド・オン・ユア・クレイヴ」のヒロインとは違い、
〝大酋長が憑依しているから強い〟
という斬新な理由が素晴らしい!
撃たれたって死にませんよ、もう死んでるんだから(・ω・)
でもね、少しずつ、少しずつ、痛んでいく、
死んでいる肉体描写が悲しいのです(/_;)

・弱暴漢からの留守電で、ゾーイが復讐者だとわかった暴漢たち。

……ここの演出でも舌を巻くのは、
のちのち効いてくる末っ子暴漢の病みっぷりですね。
彼はまだ悪人ではないんですが、
悪の限りを尽くしている兄弟たちに育成されて、
モラルと悪教育の狭間でゆらゆらしてるんです。
どんどん顔色悪くなっていくし、この、
留守電が入っているのを横で聞いている時なんて、
冷や汗ダラダラで、それこそ死人っぽくなっちゃってます。

・正気に戻って呪医の元に向かったゾーイは、 自分が何者になってしまったかを知り、 動ける時間が残り少ないことを忠告される。

……ゾーイは有刺鉄線から逃れる時の傷から、
ウジが湧いてるのを見てしまったりするのです(ノд`)
この時、自分が死人となってしまったことを悟り、
デインとのネーム入りエンゲージリングも外して立ち去るのです。
例のふとっちょ警官がこの納屋で指輪を見つけ、
デインから聞いていたゾーイの嵌めていたものだと察し、
且つ、異常な臭気に不審を覚えるのですね。

……ゾーイのデインへの想い、
デインのゾーイへの想いも描かれ、
観てると
「クッ(/_;) アイツらがいなければ
今頃ふたりで幸福な生活がスタートしていたはずなのにッッ」
という同情でせつなくなったりもして。

・暴漢たちはゾーイをおびき出すため、 デインをさらいます。 ・潜んでいたゾーイが襲撃し、 トラックの荷台での攻防が始まります。

……アクションはしつこくない程度、
しかし決しておだやかでなく決まります。
このトラックの荷台での攻防でゾーイは更にボロボロになってしまい、
赤袖の愛用武器を伝授されたりもして強化をはかります。
暴漢たちも負けずに戦力強化。
ここへきて、ずいぶん前に死んだバーテンの父親とその仲間、
(武器マニア)が登場してきます。
さすがにこの〝殺され要員・追加分〟のキャラ設定とかはなかったです。

・首に矢が刺さったまま、事件発覚を防ごうとする兄弟らに 病院に行かせてもらえない弱暴漢パート2。 ・なぜ自分の息子が殺されたのか、経緯を知りたがるバーテンの父親。 暴漢リーダー格は、デインにも聞かせるようにして、 ゾーイを拉致してみんなで犯し、殺して埋めたことを話します。 ・そんな自慢話に酔っていたので、 首矢暴漢が病院に急ごうと立ち去ったことも気づきません。 ・味方なのに『逃がすもんか』と追いかけて車を撃とうとしていると、 ズタボロなカラダをガムテで接着、 石砂などで詰め物をした満身創痍ながら、愛用武器装備版ゾーイ(赤袖)登場。

……ここからのアクションの展開は、
興味を持った方はぜひ自分の目で見てください。
ゾーイが復讐に現れたことを知ったデインが、
ゾーイを賛美するシーンは愛に満ちていますし、
ゾーイ(赤袖版)の情け容赦ない復讐行為もスカッとします。
えげつないシーンではありますが、
この直前に、拉致輪姦殺害自慢が入り、
暴漢たちへの憎悪がマックス状態になるので同情はしません。

・暴漢たちの非道な悪事を見過ごせなくなった太っちょ警官は、 (この人は暴漢たちはせいぜい町の不良に毛が生えたような程度、 としてしか認識していなかったみたいです。 娼婦を酷い目に遭わす、とか、大麻を吸う、とか、 そのくらいのことは田舎だししょうがない、と思ってる感じの人。 そんなんでも、ひどいめにあわされる方はたまったもんじゃないのにね) 暴漢リーダーに銃で撃たれる。 ・ゾーイは更に自分(赤袖)を殺した一族を根絶やしにするため、 暴漢の家を襲撃します。 すると末ッ子はすでに自殺していました。 ・薄々ことの成り行きを察していた暴漢たちの母親は、 先住民を狩ったことは後悔していないとうそぶいて殺されます。 (助けなかったゾーイには謝罪します) ・暴漢リーダーは呪医にゾーイのやっつけ方を聞きに行く。 ・呪医は赤袖の遺体を聖地に埋めてやれば成仏する、と言う。 ・リーダーは髑髏を取りに行き、聖地に埋めようとするが、 赤袖の髑髏だけ見つからない。 ・「ハッ」と顔を上げるリーダーの前に、 赤袖の髑髏を手にしたゾーイが登場。

……このあたりまでの流れが非常にスムーズで、
破綻がないのが(酋長憑依とかはともかくとして)スゴイのです。
最初にゾーイが自慢された酋長の髑髏、
その中に赤袖のものもあり、それを隠しに行ったり、
埋めるために取りに行ったり、
また埋めようとしてないのに気づいたり、
ゾーイがその間に自宅に髑髏を取りに行っていて、
そこで末っ子の自殺や、母親殺害を行ったという。
この一連の流れで時間の流れもコントロールしてるんですね。
この作品、95分ですからね~。
ほんっとによくできてる。

・ゾーイVSリーダー(チェーンソー装備) 最後の戦い。 ・勝利するも、体は半分になってしまい、死ぬに死ねないゾーイ。 ・呪医の伝言を聞いて現れたデインは、 見る影も無くなってしまったゾーイの姿に涙する。

……ここで、例のモーテルで観ていたホラーの、
せっかく助かったのに、愛する人がバケモノになってしまうバッドエンド、
というフラグが回収されます(/_;)

復讐を果たして生還、というエンドではないわけですが、
なんというか……こうしてよ、ああしてよ、
と、文句をつけにくい良作でした。
期待して観ていなかったせいか、
わたしの中では傑作と言ってもいいです。
普段はバッド・エンド、デッド・エンド大嫌いなんですが、
ラストのもの悲しい雰囲気も悪くなかったくらい。
ゾーイが死人であることは曲げられない事実だったので、
このエンドが一番美しかったと思います。
半分になった彼女を連れて帰って
「ショーン・オブ・ザ・デッド」方式に暮らす手もありますけど、
それじゃあコメディになってしまうし…。
酋長の憑依とか、ゾンビになっちゃう復讐者とか、
笑えるっぽいけど、実はわたしは何度か泣いちゃったんですよ。
醜悪な姿になってしまったゾーイが、
言葉もなく(聾唖なので)嘆き、
デインの決意を受け止めて手話で愛を告げる様子も美しく悲しい。

ゴア描写が平気で、期待しすぎず観られる方なら、
かなりオススメのB級傑作です。
ぜひ!


トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。