小松奈々ちゃんと役所広司さんがギラギラ美しい「渇き。」を観た。 [映画]

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『渇き』

内容や演出に創意工夫が盛りだくさんな割に、
二時間内に収めている希有な邦画でした。
一般的な邦画だと、凝れば凝るほど長くなって、
宣伝が過剰なほど〝大作〟とくくって、やはり長くなりがち。
でもこの作品は潔く二時間に収めてきた。
あっぱれ!
中身がどーとか、様々な問題はさておき、
とりあえず二時間に収めた! という点だけでも、
わたしは最近の邦画の中ではダントツに美しい作品だったと思いました。

以下、すでに公開後だいぶたってますが、
一応失踪したヒロインの行方がキモの作品なので、
ネタバレ有りの感想は〝続きから〟どうぞ。

とりあえず韓国のバイオレンス系作品を観てたりすると、
それほど目を背けたくなるほど強烈な…とは思いません。
ただ邦画のレベルからすると相当に痛い!
白いスーツを着て娘を探しに出かけた主人公の姿が、
話が進むにつれてドス赤く染まっていくのは、
些細なことですが、邦画としては見事!
邦画では服装やメイクなどで時間経過を表現するのを怠りがちです。
これは単純に〝面倒くさい〟というだけの理由ではなく、
撮影後の切ったり貼ったりの編集作業が相当に多いせいでしょう。
(後でヨゴレや破けや痣などの齟齬が生じないように)
この作品も編集には凝っていると思うんですが、
……数ヶ月前と現在が錯綜していて、
それをわざと混同させようとしている演出が施されています。
繋ぎ目がとても上手でした。

【ネタバレ】
元刑事の藤島の娘、加奈子が失踪する。
藤島は暴力的で非常識な男だが、
〝絵に描いたような幸福な家庭〟を夢見てもいる。
しかし実際には元妻に浮気されて離婚し、
年頃の娘だった加奈子を理解することもできず、
日々をどん底の気分で過ごしていた。

失踪した加奈子の部屋で見つかる覚醒剤や得体の知れない薬物。
加奈子のトモダチのはずの少女たちからの激しい拒絶。
中学時代自殺した緒方という目立たない少年、
薬物の噂を知りながら何も手を打たなかった中学時代の女教師。
その葬式で棺の中の死体にキスをした加奈子。
優等生のはずの加奈子のトモダチの柄の悪さ。
とりつく島もない、加奈子を診察していた医者。
加奈子を探すうち、
娘が〝何者だったのか?〟を知ることになっていく藤島。

その数ヶ月前、手ひどいイジメにあっていた「ボク」は、
キラキラと輝く憧れの少女、藤島加奈子に救われる。
加奈子は学校でも有名な
ヤクザとも交流があると言われる不良少年、松永を、手足のように使っていた。
「ボク」は加奈子と、中学の時に自殺した緒方のような、
純粋無垢な関係になりたかった。
彼女に近づきたい一心で一線を越える「ボク」。
しかし「ボク」が考えていた以上に、
加奈子の堕ちていた穴は底知れなかった。
「ボク」は薬物を投与され、意識混濁のうちに性的暴行を受ける。
「ボク」は陵辱された時の写真を撮られ、
今後も変態の供物になるよう、松永に脅される。
「ボク」は加奈子に踊らされたただの餌だったのだ。

そしてまた現在、
加奈子を知らぬ者はいないというのに、
加奈子の行方を知る者はいない。
また、加奈子の行方を探るのも、藤島だけではなかった。
ヤクザのチョウも加奈子の行方を追っている。
加奈子に惹かれ、覚醒剤に手を染めてしまった長野という少女は、
それでも加奈子の身を案じ、
親友の森下という少女に加奈子から預かったというロッカーのカギを託し、
藤島の手に渡す。
関係者が次々と死んでいくので、
長野は怯えているという。
長野から直接話を聞こうとする藤島だったが、
すでに何者かによって殺されていた。
藤島はロッカーの中から、変態たちが少年少女を陵辱している写真を見つける。
その中には笑顔でヤクザと寄り添う加奈子の姿もあった。
写真を撮影した不良グループの一人は、
藤島が偶然にも居合わせたコンビニで刺殺されている。
藤島は不良グループの松永が、
薬物や性的接待などを加奈子に強要しているとアタリをつけ、
松永の行方を追うが、ヤクザと不良の抗争に巻き込まれて捕らわれる。
ヤクザはすでに松永を拉致しており、
加奈子の行方を追うために拷問していた。
しかし松永は加奈子に惚れていたため、
彼女については口を割らなかった。
ヤクザは藤島に、加奈子の件を不問に帰す約束で、
殺し屋の男を殺すように命じる。
すでにのっぴきならない状況に陥っていた藤島は、
衝動に突き動かされて殺し屋の殺害に走る。
殺し屋は藤島が憧れてやまなかった〝理想の家庭〟を築いていたが、
妻子に秘密裏に人殺しを繰り返してきた二重生活によって
精神的には崩壊していたのか、
コロシを依頼していたヤクザや、
〝警察の闇〟にとっても持てあます存在になっていた。
(ここらへんの説明が不足していましたが、
どうもオダギリジョーさん扮するこの殺し屋、
表の顔は刑事だったようです)
殺し屋は警察の手によって自殺を演出され殺されるが、
藤島を悩ませてきた〝警察の闇〟の象徴的存在の後輩刑事も殺される。
(ここらへんもハッキリ描かれてませんが、
終始ニヤついてたキャラから笑顔が剥げ落ちてた、
という演出からすると、たぶん死んでますよね??)

そしてまた過去、
「ボク」はホテルで寝泊まりする加奈子の元に向かう。
自分の気持ちをないがしろにし、
肉体までも壊した彼女に対する気持ちがなんなのか不明瞭なままの「ボク」。
加奈子は今でも緒方が好きだと告げ、
何もかもが自由なのは、自由すぎて怖いのだろうと
「ボク」の気持ちを指摘する。
殺されても構わないとばかり「ボク」の構えるバットの前に
無抵抗の加奈子。
しかし結局「ボク」は加奈子を殺せずに、
殺し屋に殺されてしまう。

その数ヶ月後、
(もっと間が空いてないのかもしれません)
藤島はやっと加奈子が雲隠れしている〝はず〟のホテルに辿り着く。
しかしやはりそこに加奈子の姿はない。
残っていたのは加奈子が〝まともでフツーのオンナノコ〟ではなかった、
という証拠品ばかり。

クリスマス。
藤島は一つの答えを見つけ、
加奈子を追い始めた最初に聞き込みをした中学時代の女教師を訪ねる。
藤島は加奈子がどうしようもないクズだったことを認めつつ、
それでも自分はどうしても彼女の行方を追うし、
必ず見つけ出すのだと伝える。
藤島が女教師に見せたのは、変態と、まだ幼い少女の寄り添う意味深な写真。

数ヶ月前、
女教師は加奈子にも同じ写真を見せられていた。
女教師の幼い娘、アキコは、加奈子の口車に乗り、
売春組織の一員になっていた。
アキコが自分で選択したこと、
アキコがそういう選択をしたのは、
女教師である母の無理解が原因、
と、加奈子はのらりくらりと責任逃れする。
逆上した女教師は、加奈子を殺害する。

雪で真っ白の原野。
スコップを女教師に渡し、加奈子を見つけろと命じる藤島。
家に帰してくれと叫ぶ女教師だが、
藤島は加奈子の残した覚醒剤によって一線を越えており、
まったく聞く耳を持たない。

加奈子を見つけ、加奈子をこの手で殺す、
そう口走って雪原を掘りつづける藤島。

……おわり


現在と過去が入り乱れるややこしさですが、
色調の違いや音楽など、視点を「ボク」と藤島に限ることで、
かなり判りやすくなるように演出してくれています。
また、主要キャラをビッグスターが演じることで、
「これ誰だっけ?」という混同がなくなり、
似たような狂犬キャラ(男女年齢問わず)が乱立しても、
キャラの立ち位置が不明瞭になることもありません。
役所さんはわたしが日本で一番好きな役者さんで、
こういうキャラを演ずることも判っていたので、
特に違和感はありませんでした。
(最初に好きになったのが、そもそも狂犬・宮本武蔵なので、
むしろ「失楽園」の方がビックリした思い出があるなぁ)
小松菜奈さんに関しては、
止め絵の美しさに反して、意外にお芝居させるとイマイチと感じました。
加奈子というキャラのカリスマ性を表現するのは、
殴られるのも脱ぐのも辞さないくらいに追い詰められた役者でないと難かも。
父親である役所さんとのシーンも、
侮蔑と嫌悪がもっと必要だったのではと感じましたし、
狂っちゃってる感が欲しかったなぁ。
キャラは違いますけど、安藤サクラさんとか演じてたら、
凄かっただろうなぁ…。

お話は一種の都市伝説みたいなものですね。
都市伝説、と言うと嘘っぽくなっちゃうから、
「実録・猟奇事件」みたいな?
すごく気持ちの悪い下世話な事件を、
美しくて魅力的な俳優さん、女優さんたちが再現、みたいな。
なので、物語そのものは本当に安っぽいんですよ。
言い方は悪いですが、
フィクションらしくマトモなベクトルに働く要素は一つもないんです。
死ななくていい人がたくさん死に、
主人公は覚醒剤をやり、
警官はワルイヒトで、学校のセンセイが人殺し、という。
個人的に思うのは、
ここまで豪華な俳優陣、女優陣をズラズラ並べなければ、
この作品、もっと強く評価されていたんじゃないかな、
ってことでしょうか。
もちろんインパクトある宣伝と、豪華な配役で注目は集めてましたけど、
映画としての評価はキワモノで終わった気がします。
いや、キワモノだからいいんですし、
わたし個人も、好きな作品かと聞かれれば、
もっと面白くてインパクトの強い犯罪サスペンスは、
特に韓国にたくさんあるなぁ、としか言いようが無いんですけども。

韓国の犯罪モノって、向こうでは恋愛ものほどは人気ないそうなんですが、
すごくよく出来てる(-_-;)
規制の問題なのかもしれませんが、
基本的に暴力行為や暴力に至る心理がリアルです。
また、わたしが日本人だというせいもあって、
俳優陣のカオがよくわからない、というのも、
恐怖感に一役買っていると思われます。
園子温監督がいっきに有名になったのも、
他の映画では見ない配役陣の効果があったと思います。
少なくとも妻夫木聡さんと、オダギリジョーさんと、
二階堂ふみさんと、國村隼さんと、橋本愛さん、
このへんは芸達者なだけで無名な人がよかった。
ホントは中谷美紀も、もっと貧相か、もっと並の美人で良かった。
ただ、中谷さんと役所さんのラスト付近の芝居は、
さすがに見応えがあったので、いかんともしがたし。

あまり人にはオススメできない映画でした。
なんというか、もう少し、人の心に何か残すような、
毒まみれの爪痕でも、冷たい胸糞の悪さだとしても、
そういう映画だったら勧めてるんですけれど。
実はそういう何かが欠落している点も、
ある種、この映画の意図的な特徴なのかも知れません。
『チェイサー』などの作り方とよく似ているんですが、
実は『チェイサー』では女衒のクズ男の主人公には、
しだいに感情移入しちゃうんですよ。

・自分はクズだと自覚している。
 娼婦をモノだと思おうとしている。
 ↓
・ホンモノの人でなしと遭遇する。
 ↓
・実はどんなクズにも守るべき大切なものがあると知る。
 ↓
・大切なもののために人間としての境界線でとどまる。

こういう流れは理解しやすいし、
わたしは普通に犯人を憎んだり、
抵抗虚しく殺されてしまった娼婦への同情で泣いてしまいました。
『渇き』にはこういう理解しやすさを求めるのは無意味でしたし、
その無意味さに価値を見出している創作物なので、
そういった点で、わたしの趣味ではなかったです。

ちなみに、もしこの手の映画がスキで、
韓流ものに拒絶反応がないなら、
「ビー・デビル」「チェイサー」「殺人の告白」
などの方が視聴をオススメします。
「オールド・ボーイ」なんかは、たぶん有名作品なので、
映画好きの人なら普通に観てるかな。
「殺人の追憶」とか。
上記の作品たちにもツッコミどころはあるのですが、
邦画よりはずっと素晴らしいです。
無意識に期待してしまうのか、
どうも邦画は辛い感想になってしまいますね(-_-;)

は、でも、役所さん主演で超絶つまらなかった
『レイクサイド・マーダー・ケース』に比べたら、
こっちのが百倍面白かったですよ。


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