『哭声/コクソン』を観ました。 [映画]

     
『哭声/コクソン』
ナ・ホジン監督作品。

長い!
二時間越えです。
それでも肩を落としてしまう邦画より、
長さに説得力のある出来です。
もちろんいらない部分も数多くありましたが、
それらを含めてラストへ向かう説得力が強い作品です。

特筆すべき一つ目は日本人俳優としても有名な、
國村隼さんがメインキャラクターとして配役されている点。
あまりセリフはありませんが、
重要キャラクターとしてはかなり韓国俳優陣に溶け込んでいたと思います。

二つ目の特殊な点は、結論が出ないことです。
ハッキリした解答はないので、
モヤモヤが残ることになります。

ホラーではありませんが、
ある種、ホラー色が強いです。
グロテスクな描写や意味深なシーンなど、
〝よくわからないもの〟が苦手な人にはオススメしません。

これらを踏まえた上で、
あらすじなどを読み、
ネタバレなしで観るのが最上の鑑賞法じゃないかな。
個人的には、良作ではあるけれど、
長い、という点と、全体的に悪意が優る点でマイナス評価です。
同監督でも、
人間味のあった『チェイサー』をオススメしたいですね。


以下、ネタバレありのわたし的な見解。



この作品は、ラスト近くの〝選択〟で、
観客にも物語の結末を
「どうなんだと思いますか?」
と、投げかけてきます。
昔、私が韓国映画を好きになった最初の作品『カル』でもそうだったように、
たまに韓国映画は結論を提示しません。

物語のざっとした流れを書くとこうです。

・山間部の田舎村、谷城(コクソン)が舞台。
・小さな警察署に務める警官の主人公ジョング。
・病気で狂人になってしまったとしか思えない犯人が、
 自分の家族を殺す事件が多発しはじめる。
・村人たちは根拠のない噂話で、
 村はずれに住み着いた日本人が、何か悪さをしているのではないかと疑い始める。
・死んだ犯人の解剖所見では、毒キノコにあたったのでは? というあいまいなもの。
・噂など信じないつもりだったジョングも、
 手に負えない事件の陰惨さに思考が追いつかず、
 幼い娘のヒョジンに病気の兆候が現れ始めると、
 日本人を敵視し始める。
・娘のためならばできることはなんでもしておこうと、
 祈祷師イルグァンにまで頼るジョング。
 イルグァンは、日本人を悪霊と呼び、殺すことを提案する。
・そうしているさなかにも、殺人事件? は次々と広まっていく。
・日本語の通訳ができるカソリックの若者に日本人との仲介を頼むが、
 日本人は明確な答えを出してくれない。
 「わたしが何を言っても、君らは信じないだろう」と。

このあたりから、物語は二転三転します。
山の中に住み、鹿をナマで食べる日本人の男、
その男を悪霊と呼ぶ祈祷師、
祈祷師を撃退することができるが日本人に追われている正体不明の女。
一種の三すくみ状態で、
娘を助けて日常を取り戻したいだけのジョングの常識を越えた異常事態です。

政府は各地で発生している異常な事件について、
「幻覚キノコが強壮剤などに混入したせいだ」
と発表します。
映画の冒頭のジョングなら、これを信じたでしょう。
でも彼は山の中で死んだはずの男が動き回ったり、
娘が悪いものに憑依されたように暴れる様子を目にしてしまった。
「幻覚キノコ程度でこんなこと起こるはずがない!」
と、彼は〝彼自身の結論〟を出します。

ジョングは祈祷師に頼り、
人知を超えた何かを殺し、娘を助けようとします。
しかし祈祷師は
「正体不明の女こそが悪霊だった!
あの日本人は悪霊を退治しようとしていたんだ!」
と、ジョングに説明します。
ジョングはすでに日本人を追い回して殺害してしまっていました。
では自分は誰に救われたらいいのか?
ジョングの前に正体不明の女が現われます。
決して生きた人間には触らず、
他人の装束を身にまとったどこの誰とも知れない女です。
しかし彼女は言います。
「本当の悪霊はあの日本人よ。あいつはまだ生きてる。
ヒョジンを狙ってるから罠にかけているところなの。
ニワトリが三回鳴くまで、あなたは家に戻らないで」
彼女を信じようとするジョングに、祈祷師は電話をかけて警告します。
「あの女の言うことを聞いちゃ駄目だ、早く家に戻れ!」

そのころ、カソリックの若者は不安を感じて、
日本人の住んでいた跡地に向かいます。
するとあばら屋には地下が続いており、
死んだはずの日本人がいました。
若者は「あなたは誰か?」と、問いかけます。
「あなたが自分を善きものだと言うなら、
わたしは信じてここを去ります。
そうでないと言うなら、あなたを滅さなくてはなりません」
日本人は不思議そうな顔つきで問い返します。
「答えを聞いて立ち去れるつもりなのか?」と。
その姿はしだいに禍々しい魔物に変化していきます。
すでに日本人を疑っていた若者の思い描く悪魔そのものの姿へと。
悪魔の愉快そうな笑い声が洞窟に響きます。

ジョングは混乱のまっただ中にいましたが、
自分の愛人の服をまとった正体不明の女を信じることが出来ませんでした。
彼は祈祷師を信じ、ニワトリが三回鳴く前に家に向かいます。
家の中では妻と妻の母が死んでいました。
虫の息の妻に寄り添ったジョングに、ヒョジンの凶刃が迫りますが、
ジョングはなつかしい娘との思い出にひたり、逃げません。

夜が明けると祈祷師がやって来て、
ジョング一家の遺体の写真を撮りました。

…………ここで終了です。

さて、どういうことなのか?(笑)

日本人(便宜上使ってるだけで、反日の空気感はゼロでしたよ)が悪魔で、
正体不明の女が善の御使いなのか。
祈祷師は悪魔の使いだったのか。

いろんな意見があって面白いです。
わたしも考えました。

日本人も女も、同じ〝古い神〟なんじゃないかな、と。
いわゆる日本の〝もののけ神〟みたいなもので、
信じる者の鏡みたいなものなんじゃないか、と。
もしジョングが最初から迷信を信じなかったら、
キノコ治療で娘は治ったんじゃないかな。

……娘が高熱を出した時、母親が薬を買ってきて飲ませるというシーンがあります。
これが、幻覚キノコに感染してしまった、という私の印象。

奇しくも日本人が最初に言う
「わたしが何を言っても、君らは信じないだろう」
というセリフは、鏡を思い起こさせます。
正体不明の女も、具体的な言葉は何も言いません。
なんとなくジョングを迷わせるような、導くような、
どっちつかずの曖昧な言葉だけを口にして、
「わたしを信じなさい」
と言いながら、信じさせてくれる行いはしないのです。
だけどもしジョングがカケラも二人を疑わなかったら、
少なくともヒョンジの事件は起こらなかったのではないかと思います。

唐突にメインキャラとして現われた祈祷師は、単純に人間だと思います。
ただし古い神の存在を受け入れちゃった、
ある程度〝法力〟みたいなもののある人間ですね。
だから日本人の方にも遺体写真を奉納するし、
女の呪術にも反応してしまう。
彼は神たちを善玉とも悪玉とも思っていない。
ただ活用すれば稼げるので
ありがたく感じているだけなのではなかな。
人間が過剰に神に反応すれば、
「悪霊だ! お祓いに五百万円必要です」
みたいに乗り込む(笑)
古い神は触れただけで祟ると言われていますね。
神とはありがたくも有り、おそろしくもある。

日本人と女はどちらも反目するようにできていて、
人間を一種の〝呪物〟にしている。
お互いを倒して自然の縄張りを拡げたい、という神的本能?

このへんまで考えて、
疲れてやめました(笑)
結局、公式な答えはないので、
みんなで考えましょう、というだけなんですね。

疑うべきか、信じるべきか。
この映画の中では祈祷師以外は誰一人、
何かを信じて生き残る、ということはできませんでした。
みんな疑って疑って、疑いに根拠がなくても疑い続けて、
最後には疑問符の渦に落ちて死んでしまう。
そんな虚しさが残る映画でした。





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